【心理学】自閉症スペクトラムの最新治療研究について
【概要】
今回は自閉症スペクトラム(ASD)の最新治療における各国研究を簡単にまとめます。
自閉症スペクトラムは遺伝率70%ほどと極めて高く、環境要因は少ないことが知られています。実際に発達障害に関連する遺伝子は数百も見いだされており、単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子の作用が関係する複雑な病態であることが示唆されています。
今回は、自閉症スペクトラムの治療研究として、オキシトシン点鼻投与、TMS(経頭蓋磁気刺激)、腸内細菌投与の研究をご紹介します。
【研究されている治療】
オキシトシンとは親愛ホルモンとしても知られています。たとえばお母さんが子供に授乳する際、お母さんの脳の中でオキシトシンが分泌されていて、子供に対する愛着を深めることが知られています。またペットと遊んだり、友人や恋人と一緒の時間を過ごすときも、脳内でオキシトシンが分泌され、お互いの友情・愛情が深まることが報告されています。
このようにオキシトシンが脳内に分泌されると、相手に対して親愛感情を持つため、自閉症スペクトラムの患者にオキシトシンを投与すれば引きこもり行動や対人不安が軽減されるのではないかと考えられたわけです。
国内の実験では、小規模の研究になりますが、オキシトシンの点鼻投与により自閉症スペクトラムの症状が軽減したとの報告があります。ただ一方で、別の研究では効果がなかったとする報告もあり、オキシトシンが自閉症スペクトラムに効果があるかどうかはまだ議論が分かれていますが、いつか大規模な臨床研究がなされ効果が確認されるかもしれません。
②TMS
自閉症スペクトラムの人の症状の一つとして「こだわり行動」があります。このこだわり行動は脳の可塑性が一部低下していることが原因なのではないかとする学説があります。
通常の人の脳では、使わない神経回路は消去され(刈り込みといいます)、新しい環境に合うように新しい神経回路が構築されていきます。よって健常人は新しい環境に適応し、古い考え方や行動特性はゆっくりと消えていきます。
ところが自閉症スペクトラムの人は、この神経回路の刈り込みが行われず、古い神経回路が残ったままになりやすいのです。このことが、こだわり行動・頑固な性格の原因なのではないかと示唆されています。
つまり古い神経回路を何らかの方法で刈り込む手法があれば、自閉症スペクトラムのこだわり行動が軽減する可能性があるというわけです。その手法がTMSです。
TMSとは、脳の特定部位に外から磁気をあて、古い神経回路を一時的に遮断します。いくつかの文献報告ではADHD(注意欠陥多動性障害)や自閉症スペクトラムの症状に効果があったとする文献もあります。日本国内でもTMSを受けることはできますが、保険適用されないため、高価な治療となっています。
③腸内細菌
自閉症スペクトラムの人の多くは、なんらかの胃腸障害を患っている確率が高いことが知られています。どちらが原因でどちらが結果かは分かりませんが、腸内環境を正常にすれば自閉症スペクトラムを軽減できるかもしれないという学説があります。
動物実験での報告です。
健常マウスと自閉症マウスを用意します。健常マウスのフンを、自閉症マウスの腸内に移植するとその自閉症行動が軽減することが報告されています(逆に自閉症マウスのフンを健常マウスに移植すると、健常だったはずのマウスが自閉症行動を呈するようになります)。
また健常人と自閉症スペクトラムの患者の糞便中の腸内細菌を調べたところ、両者で異なる腸内細菌が発見されたそうです。
この研究が進めば、腸内細菌サプリメントなどで自閉症スペクトラムを軽減できる商品が出来るかもしれませんね。
今回は以上になります。
自閉症スペクトラムは遺伝病で、複数の遺伝子が関与するため、遺伝子治療などは難しいでしょう。
しかしながら世界の研究者はさまざまな研究で、自閉症スペクトラムの治療研究を行っているようです。
今後の展開に期待しましょう。
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