【心の仮面】アズイフパーソナリティとは?
【概要】
今回の記事では「心の仮面」についてのお話をします。
実は正常な精神の人たちも、パーソナリティ障害をお持ちの人たちも「心の仮面」を作って日々生きています。
ペルソナという言葉をみなさんも聞いたことがあると思います。これは心理学者のカール・グスタフ・ユングが提唱した概念です。人は、周囲の環境に上手く適応するため、その時その状況に適した「正常な心の仮面」を作っているという考え方です。
心の仮面というと、自分の正体を隠していて、なんだか悪いことをしているように聞こえますが、あくまで「環境に適応しようとする心の働き」が心の仮面と呼ばれているだけです。
たとえば、会社では部長として時に厳しく部下を指導し強度のストレスにも毅然と振る舞う人が、家に帰れば家庭思いの優しいパパ・ママになることもあるでしょう。心の仮面を付け替えているわけです。心の仮面の良い効果ですね。
今日はそんな「心の仮面」についてのお話をご紹介します。
【「心の仮面」を現代心理学的にいうと?】
上記では精神分析学における心の仮面、すなわちペルソナの話をしました。
現代の心理学では、心の構造とはどのように定義されているのでしょうか?それは以下の3層構造になっていると定義されています。その人の心の核になる部分を『気質』、その上に成り立つものを『パーソナリティ』、さらにそれをとりまくものを『役割的性格』といいます。
①気質
⇒生まれながらに持っている心の性質のこと。その人の心の正体である。遺伝的要素が大きく、変化することはない。
②パーソナリティ
⇒気質を基礎としながら、後天的な要素、つまり家庭環境や友人・人間関係・さまざまな学習や経験などを基礎として構築されている。変化しにくい。
③役割的性格
⇒生徒、会社員、母親、父親、部長、医師...などの社会的役割によって規定される心の領域。前述の部長の例で言えば、就業時間内は部長としての仮面をかぶり、部長としてふさわしい行動・判断・思考を行うが、家に帰ればパパ・ママとしての仮面をかぶり、子供と遊んだり、家族団らんを楽しんだりするというかたちである。この役割的性格は簡単に変化する。
つまり③の役割的性格は自分の意志で簡単に変化させることが出来るのです。この部分が「心の仮面」になるのでしょう。
また話は少し逸れますが、心の病の原因が気質にある場合は生涯直る可能性は低いでしょう。前述の通り、気質は遺伝的要素が大きく変化させることが難しいからです。遺伝的要素が大きい精神疾患にはADHD、統合失調症、自閉症スペクトラムなどがあり、遺伝率は70〜80%です。
心の病がパーソナリティに原因がある場合(いわゆるパーソナリティ障害)もなかなか治らないと言われています。パーソナリティ障害が治りにくい原因は、パーソナリティ自体が変化しにくいこと以外にも、診断が難しいこと、重ね着症候群(複数のパーソナリティ障害が混在していること)、診断基準が身体の病気にくらべ曖昧なので治ったかどうかの確認も難しいこと等が挙げられます。
心の病の原因が、役割的性格にあるのなら簡単に治せます。なぜなら前述のように、役割的性格は簡単に自分の意志で変化させることができるからです。部長職の仮面を被ることによる重圧がストレスなら他の任につけば良いですし、その会社の会社員であることが原因なら転職すればいいのです。
役割的性格はある程度までは自分の意志で「演じている」という側面があるため、自分の意志で変えられるのです。
【アズイフパーソナリティとは?】
パーソナリティ障害の人たちが作り出す仮面のことは特別にアズイフパーソナリティ(as if personality:かのようなパーソナリティ)と呼ばれています。精神分析家のH・ドイチュが提唱した概念です。
パーソナリティ障害とは「性格特性が極端に偏っていて、それが原因で深刻に悩んだり、社会と摩擦を起こしたり、健全な社会生活を営むことが困難になっている状態」です。誰でも空想・妄想をすることはありますが、それが行き過ぎると妄想性パーソナリティになり、誰でも一時的にキレることはありますがそれが行き過ぎて日常的な暴力や破壊行動に出ると反社会性パーソナリティを疑われます。
彼らは社会に適応しずらい・生きづらいという悩みを抱えています。それでも彼らは社会に適用しようと努力し、その結果周囲に受け入れやすい良く出来た仮面を作り、その仮面を通してなんとか表面上だけでも社会に適応しようとします。つまり擬似的なパーソナリティ(アズイフパーソナリティ)を作り出すのです。
彼らは社会・環境の変化に上手く適応しようと仮面を作るのですが、それは本来の自己を抑圧して周りに迎合することにほかなりません。その結果、彼らは自分が何者なのか、本来の自分は何がしたいのかが曖昧になってしまい、空虚感・抑圧によるストレスを感じるようになってしまいます。また、見境なく周囲と同調できる仮面を作るような習慣ができてしまい、その結果周囲に振り回され、精神的なストレスでぼろぼろになってしまいます(かといって仮面を作らなければ社会と適応できないというジレンマに陥る点も、パーソナリティ障害の苦しい症状です)。
【まとめ】
①心の仮面を作るという行為自体は異常なことでも何でもない。周囲に上手く適応し、社会との摩擦を極力減らそうとする自然な行為である。
②心の仮面は、精神分析学的には「ペルソナ」、現代心理学的には「役割的性格」である。
③パーソナリティ障害の人たちの作る心の仮面は「アズイフパーソナリティ」と呼ばれる。これは社会に適応しやすくなるというメリットがある一方で、本来の自己の抑圧してしまうこと、仮面をことあるごとに見境なく付け替えるということが起こり、本人にとっては多大なストレスを感じたり、本来の自分のアイデンティティを見失い空虚感を感じる結果にもなりかねない。
以上です。
なんらかのパーソナリティ障害に該当する人は、人口の15%はいるという学者もいます。この中には、心の仮面を作るのがとても上手で、パーソナリティ障害であるにも関わらず何の不自由もなく一生を送れる人もいます。
ただそうでない人は、次々と仮面を作っては変える作業に追われ、多大なストレスと自己の抑圧というツラい体験をしなくてはなりません。
ぜひパーソナリティ障害の正しい知識を深めてもらって、彼らにも寛容な社会が出来るといいですね(ダークトライアドやダークテトラッドなどのサイコパス・ナルシシズム・マキャベリズム・サディズムや攻撃性パーソナリティは別です笑)!
それではまた次の記事で!
<参考文献>
*牛島定信 著、『パーソナリティ障害とは何か』、株式会社講談社
<関連過去記事
>