ドラマでFBIが使っているプロファイリングとは?
ドラマや小説などでよく見かけますよね?
犯行現場などから、犯人像や犯人の居住区などを推定できるとされる方法。
いわゆるプロファイリング。
今日はプロファイリングの方法について、かなり簡単にまとめたいと思います。
目次
・プロファイリングの例
・プロファイリングの原理
・プロファイリングのタイプ
・まとめ
【プロファイリングの例】
実際にアメリカで起こった連続殺人に対して、プロファイラーが犯人像を分析した例を紹介します。
①事件の概要
アメリカのカリフォルニア州サクラメントで6名の連続殺人事件が発生した。
一人の男性がライフルで射殺され、その日のうちに近所の少年も狙撃された。
翌年には、近所で主婦が頭に4発の銃弾を受け、その家のナイフで胴を切られ殺害された。遺体は廊下を引きずられたあとがあり、家の中はゴミが撒かれていた。また犯人が血を飲んだと見られるカップも見つかった。
1週間後にはやはり近所で、再び主婦が殺害される事件が発生した。偶然訪れた男性と子供も殺害されており、2歳の子供も連れ去られた後殺害された。主婦の遺体は激しく損壊されており、家の中からは、やはり犯人が血を飲んだと思われる容器が見つかった。
②上記事件に対するFBIプロファイラーの分析
FBIのプロファイラーは以下のように犯人像をプロファイリングしました。
・犯人は白人の男性である。
・年齢は27歳。
・栄養不良で痩せている。
・住居はひどく散らかっている。
・犯行の物的証拠は住居にある。
・精神病の既往歴あり。
・同性とも異性とも交際はなく単独で行動。
・ほとんど自宅で過ごしている。
・軍隊に入った経験はない。
・現場から1.5km以内に住んでいる。
・だらしない外見をしている。
犯人はその後捕まりましたが、上記のプロファイリングはほとんど一致していたそうです。
なぜFBIのプロファイラーは、こんなにも詳細な犯人像が描けたのでしょうか?
【プロファイリングの原理】
①プロファイリング技術は、過去の膨大な犯罪情報を統計学的に解析し、「犯罪者の特徴」と「犯行現場」との間の関連性・法則性を見いだしたリストを作成・参照している。
プロファイリングには後述のように大きく分けて2タイプありますが、アメリカFBIの捜査官が使うのは、FBI型プロファイリング技術です。
FBI型のプロファイリング技術は、犯罪者像を「秩序型」「無秩序型」の2つに大別します(のちにこれでは対応できない犯罪者像もあることが判明したため、「混合型」と言うカテゴリーもできました)。
大まかに言うと以下のようになります。
◎犯行現場リスト
・秩序型...計画的な犯行・犯行現場はきれい・遺体を隠蔽する・凶器や証拠は現場には残さない・遺体を移動させる・被害者と会話する・相手に服従を要求する..など。
・無秩序型...無計画で特発的な犯行・犯行現場は乱雑・遺体を隠さない・現場にさまざまな証拠を残す・遺体は残す・被害者と会話しない・いきなり攻撃する...など
◎犯罪者像リスト
・秩序型...知能は平均かそれ以上、社会性あり、外見はしっかりしている、人格障害である、結婚しているか恋人と暮らしている、行動範囲が広い、マスコミに注目している、事件後転居・転職したりする...など。
・無秩序型...知能は低い、社会性なし、外見がだらしない、精神疾患がある、1人で暮らしている、行動範囲は狭い、マスコミには興味がない...など。
このリストは過去の膨大な犯罪データを統計学的に分析して得られたものです。つまり一定の確率で妥当性・相関性があると認められているのです。
つまりどういうことか?
まず犯行現場を見て、上記の犯行現場リストを確認し、その犯人が無秩序型か秩序型かを判定します。その後、該当する方の犯罪者像リストを見て記述するだけで自動的に犯人像が描けるという仕組みです。
サクラメントの事件に話を戻しましょう。
犯行現場はどうだったでしょうか?
「犯行現場は乱雑である」「証拠を残す」「遺体を隠さない」という特徴があります。また計画性も見受けられず、証拠を隠滅しようという感じではありません。そのことからこの犯行現場は無秩序型であると推定されます。
よって犯罪者像リストの無秩序型の文言を組み合わせれば、犯人像が自動的に浮かび上がってきます。つまり、犯人は一人で、外見がだらしなく、精神疾患があり、行動範囲は狭いため近くに住んでいる...ということになります。
また犯人が男性であるという推測は、過去の連続殺人事件の大半は男性が犯人であること、犯人が痩せていると言う部分は、血を飲むという異常な行動をしていて精神疾患が疑われ、外見に注意を払わないような犯人はおそらく食事にも注意を払っていないだろうという推測から来ています。年齢については、精神医学の知識から、妄想型の精神疾患をもち、それが悪化して人を殺害するまでにかかる年数を考慮すると年齢は20代後半であろうという推測からなっています。
つまり多少の精神医学的・心理学的知識は要求されるものの、おおまかな犯人像は二つのリストを照らし合わせるだけで描けてしまうという仕組みなのです。実際に、FBIのプロファイラー複数を集め、同じ事件に対してプロファイリングを行わせたところ、70%以上の一致率であったとのことです。このことからもプロファイリングとは、名人芸ではなく、統計学に基づいたサイエンスであると言えます。
【プロファイリングのタイプ】
①大きく分けて「FBI型」と「リヴァプール型」がある。現在のプロファイリング技術はリヴァプール型が主流である。
FBI型は前述のとおりです。
リヴァプール型についての詳細は省略しますが、ざっくり言ってしまうとFBI型のプロファイリングでは説明がつかない「混合型」もきちんと説明するために、より詳細に統計学的解析を行う方法ということです。このリヴァプール型をもとにして、犯人像の特定などの犯人プロファイルだけでなく、犯人の居住区まで特定する地理プロファイルなどが研究されています。
たとえば、犯人プロファイル面においては、過去の犯罪データのうち、犯行現場の様子や犯人の行動を細かく分類し、複数の犯罪間における一致率を調べます。たとえば窃盗事件であれば、「お金を盗む」「窓を破壊して侵入する」などはどのような窃盗事件であれ類似する行動(すなわち一致率の高い行動)であるとされます。このような行動をA4画用紙に中心に書きます。一方で、窃盗事件なのに「何かしらメッセージや書面を現場に残す」「重厚な金庫を金庫ごと奪う」などは発生頻度の低い、言い換えればその犯人の特徴を何らか示すものと言えるでしょう。このような事象(特異行動・特異事象と言います)は画用紙の中心から離れた部分に記載します。このように、犯行現場の様子や犯人の行動を詳細に列挙し、さらにリスト化するだけでなく空間的にマッピングしていきます。実際にこのようなマッピング解析を行ったところ、FBI型プロファイリングの秩序型・無秩序型だけでは説明できない混合型が確かに存在することが示されています。
②犯人の居住地区を特定する地理プロファイリング
犯行現場を地理的にマッピングして、犯人の居住区を特定するプロファイリングのことです。
この手法は二つの仮説に基づいています。一つは拠点型、もう一つは通勤型です。
拠点型とは、犯人が自分の居住地から一定の範囲内で犯行を行う場合です。
通勤型とは、犯人の居住地から少し離れた、一定の範囲内で犯行が起こる場合です。
さらに前者では犯行現場をプロットしていき、その最大半径の中に犯人は住んでいるというサークル仮説があります。
一例を紹介します。このサークル仮説は、拠点型に限定するという前提条件付きで解析すると、70〜80%くらいの確率で連続放火犯の居住区を特定できることが報告されています。なかなか強力なツールですね。
ただし、このサークル仮説には欠点が二つあります。
一つ目の欠点は、サークル仮説における最大半径があまりにも広範囲であった場合、居住区を絞り込めないという点です。円中心仮説と重心仮説というものが提唱されていますが、円中心仮説においては犯行範囲が狭い範囲(5km以内)であれば、サークルの円心1km以内に犯人の居住地がある確率は50%を超えるそうですが、それ以上犯行範囲広いときは地理プロファイリングの精度が落ちるそうです。重心仮説においては、通勤型の犯人のデータを除外して解析すると、高い精度で居住地域を推測できる可能性が示唆されています。
二つ目の欠点は、拠点型であるという前提条件があることです。連続放火事件が起こった時、もし犯人が通勤型であった場合は上記のような精度で居住区を特定できるとは限りません。本当は通勤型なのに、拠点型と間違ってプロファイリングを作成しても当然よい精度は得られないでしょう。
つまり要約すると、連続放火事件が起こり、犯人の居住区を特定したい場合、犯人が拠点型なのか通勤型なのかを予測する手法が必要であるということになります。これは今後の課題になるでしょう。
海外の例では放火や性犯罪は拠点型がきわめて多く、たとえば放火の場合は90%が拠点型であるという国もあります。ただ日本ではそこまで極端ではないとのデータもあり、過去の犯行の特徴などをより詳細に分析・研究する必要があるようです。
【まとめ】
①プロファイリングには二種類あり、犯人プロファイリングと地理プロファイリングがある。
②犯人プロファイリングとは、犯行現場の情報から犯人像を推定する方法で、FBI型とリヴァプール型の二つがある。現在の主流は後者だが、FBI型のプロファイリングも一定の効果を上げている。
③地理プロファイリングとは、犯行現場の情報から犯人の居住区を推定する方法で、犯人像の仮説には拠点型と通勤型があり、それぞれでプロファイリング結果の精度が異なる。
④犯人が拠点型なのか通勤型なのかを明確に分ける指標はまだ研究途上である。
以上になります。
海外ドラマとかではプロファイラーたちが現地におもむき、捜査の指揮をとるイメージがありますが、あくまで犯罪捜査の基本は鑑識や法医学などの科学捜査です。
現実世界のプロファイラーたちは、そのような科学捜査の情報をもとに現場にレポートを送る・助言をするくらいだと言います。ドラマとは違い、結構地味なお仕事のようです。
繰り返しますが、プロファイリングの基礎は統計学に基づいたサイエンスです。
いきなり犯人の心の闇に焦点を当てて犯人像を推測するような、当てにならない方法ではありません。
まだまだプロファイリングは研究途上ではありますが、有効な手段となりうるケースも判明しつつあるので、犯罪学の研究者の方々にはぜひ頑張ってもらいたいですね!
<参考図書>
*1:越智啓太著、『犯罪捜査の心理学ープロファイリングで犯人に迫る』、株式会社化学同人
*2:越智啓太著、『犯罪捜査の心理学 凶悪犯の心理と行動に迫るプロファイリングの最先端』、株式会社新曜社