ゆうちゃんの家

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海外ドラマを科学的検証!「しぐさや表情でウソは見破れる」はホント?

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今回は「ウソは見破れるの?」についての記事です。

よくドラマや小説でも見かける方法がありますよね?

 

「ウソをつくと口ごもる」

「ウソをつくと声のピッチがあがる」

「ウソをつくとまばたきが増える」

 

みなさんは、これってどこまでホントだと思いますか?

 

 

①ウソを見破るのは難しい

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こんな研究があります。

警察官・心理学者・取調官・裁判官などさまざまなタイプの人約16000人を集めて、ウソを見破る確率を調べた大規模な研究があります。複数の科学文献を集めたメタ分析ですので、信頼性は高いと言ってよいでしょう。

 

その結果、彼らがウソを見破る確率は約54%だったそうです(*1)。

適当にあてずっぽうでやったとしても50%ですので、心理や取調べの専門家でもウソを見破るのは難しいと言わざるを得ないです。

 

でも中には特殊な人もいて、ウソを見破るのが上手い人もいるそうです。

彼らはいったい何をしているのでしょうか?

 

結論からいうと彼らはウソを見破るのが得意というよりも、

「上手な尋問のテクニックを持っている」

「ウソを直接見抜くのではなく、こちらの尋問に対して相手の心理がどのように変化するかを上手に観察している」

ということのようです。

 

 

②相手の心理を見破るにはプレッシャーをかけることが必要

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前述のとおり、「他人がついているウソをただ観察して見破るのは非常に難しい」です。では相手の心理変化はどうやって見破るのでしょうか?

 

みなさん聞いたことがあると思いますが、言葉でウソをつこうとしても、身体の仕草や表情に特徴的なパターンが現れるから、これを観察すればウソが見抜ける確率が上がる、とする説がありますね。

これはもともとアメリカの心理学者、ポール・エクマン博士の説です。

彼は「ヒトがウソをつく場合、注意とコントロール能力は言葉に集中する。その結果、動作や表情をコントロールするのに注意が向かなくなり、結果として仕草や表情に不自然な点が観察されるようになる」といいます。

 

たとえば、よく指摘されているのは下記の動作です。

・口ごもる

・言い間違う

・声のピッチが上がる。

・質問から返答までの時間が長くなる。

・発汗

・まばたき

・顔の表面温度の上昇

 

これらの検証結果はどうなっているのでしょう?

被験者にわざとウソをつかせてた後、上記の尺度に変化が現れるか検討されたことがあるのですが、多少の差はあるものの大きな変化はないというのが結果でした。

 

ただ、とある状況で同じことを行うと、上記の項目に変化が現れたのです。

それは何か?

カンタンに言うとプレッシャーをかけた場合です。

 

次にこんな実験が行われています。

さきほどのようにただウソをつかせるのではなく、模擬的な窃盗行為を行わせます。

その後、取調官をうまくだませたなら報酬がもらえることになっています。

さらにウソをつく被験者は、取調官に対して、窃盗行為の説明しますが、その際自分の行動の最後から最初の順(普通の説明の仕方とは逆。いつもとは違うタイプの説明をさせられるので脳にかなり負担がかかります)に説明をさせました。

 

その結果、ウソをつく被験者の「口ごもり」「いい間違い」「行動の説明の詳細さが欠ける」「身体の無意味な動き」などの増加が確かに確認されたのです。

 

つまり、ウソを表情や仕草で見破るには、たとえば「窃盗行為をしているという後ろめたさ」「ウソが成功するかしないかで、自分にとって大きな利益あるいは損失になる状況」「逆に説明させられるなどの心的負荷」などのさまざまなプレッシャー(専門的には認知的負荷といいます)をかける必要があるのです。

 

 

③ウソをつくときの人間の心理とは?

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ウソをつく人の心理状態は、「適切なプレッシャーがかかっている状態であれば、ウソがばれるのではないかという不安・恐怖でいっぱいな心理状態」になります。

不安・恐怖に駆られると、いつもは見られないような動作・仕草・表情が現れます。逆に普段みられるはずのものが消失したりします。これをきちんと観察するのです。

(ここで注意してほしいのは、そもそもプレッシャーがかかっていないなら相手は不安・緊張を感じないので、不安・緊張特有の行動が現れません。またサイコパスや一部の脳障害を抱えている人のように不安・緊張をそもそも感じない人も、不安・緊張特有の行動は観察されません)

 

まず不安についてです。

人間は強い不安を感じると、それを解消しようとする心理状態になります。その結果、起こる身体の行動を「不安回避行動」といいます。

実は相手の心理状態を読むのが上手い人は、この不安回避行動をよく観察しています。

 

不安回避行動は結構個人差が大きいので、「こういう行動をとったときはアヤシい」みたいなことを一概には言えません。

不安になると、ある人はじってしていられず動き出しますし、ある人は動かなくなりますし、ある人は自分の両腕をさすったり、ある人は目を閉じたり、まばたきの回数が増えたりなどさまざまです。

よって、この不安回避行動を観察することによって相手の心理を見極めるには「相手の心が平静なときの状態」と「不安を感じている状態」の二つを知り、比較する必要があります。

つまり、プレッシャーがかからない(相手が不安を抱かない)状態をまず観察し、何気ないプレッシャーのない日常会話をしたときに相手がどんな癖があるか・あるいはないかなどを観察します。次に相手にプレッシャーがかかるような質問や言動を行い、どんな行動変化が起こるかを観察します

何も変化が現れなければ相手の心理状態に変化はなかったのでしょう。

しかし、もし何らかの行動変化が見られれば(ある行動がなくなる・あるいは急に出現するなど)相手の心理に何か変化が起こったかもしれないと判断するのです。

つまり、ただ単に観察しているだけでは相手の心理は見破れないのです。相手の心理を見破るためには、こちらから積極的にアプローチ、つまり上手に尋問していく必要があります。その一つのテクニックが前述のとおり「プレッシャーをかける」です。

 

例を挙げます。

相手は足を組んで、右手を机の上に置いたまま話す癖があるとします。会話を続けてもその姿勢は崩れませんでした。

ところがある話題にあなたが触れたとき、急に相手が机の上の手を引っ込めたり、組んだ足を崩したりしたとします。

そのときは、相手の心理状態に何か変化があったと解釈するべきでしょう。

(もちろん足を組むのが疲れたから、足を緩めた可能性もあるでしょう。その場合は再度確認しましょう。何気ない会話に戻し、相手が再び足を組んで右手を机の上に置いたとします。そこでさきほど反応のあった話題にもう一度触れます。再度相手が姿勢を変えたり、普段見られないような行動に出たりしたら、ただの偶然ではなく心理的要因の可能性が高いです)

 

また恐怖についてです。

恐怖に対する人の反応は、不安の場合よりも顕著で、大まかな見方をすれば個人差も大きくはないです。

恐怖を感じると、人間の脳は意識的動作を行う大脳皮質の働きが弱まり、大脳辺縁系という無意識な動作を司る領域の働きが強くなります。この結果、意識的な動作(たとえばウソをつく、不安を隠そうとするなど)を行う能力が大きく低下します。一方で、大脳辺縁系が有意になることにより、その人本来の心理状態が行動に現れやすくなります。

たとえば汗をかいたり、相手の目をじっと見たり逆に逸らしたり、身体がこわばったり、急に攻撃的になったり...などします。

このような大脳辺縁系の反応を「逃走・闘争反応」といいます。

典型的にはまず全身の筋肉が一時的に硬直します。しばらくするとなんとかその場を逃れようとする逃走反応がおこります(たとえば尋問されているのに、関係ない話題を持ち込んで話題を逸らそうとしたり)。それでも恐怖の対象から逃れられないと悟ったとき、人間は最後の手段、闘争反応に出ます。つまり攻撃な言動に出るのです。明らかに怒った表情をしたり、怒鳴ったりするのです。

 

相手を問いつめていて、話題が確信に触れた瞬間、普段目線がふらふらしている人が急にこちらの視線に合わせ、身体のふらふらした動きがぴたりと止まれば、相手の心理状態に大きな変化があったのでしょう。その後、相手が話題を逸らしたり、関係のない話を延々と続け(ウソの言い訳を考える時間稼ぎかもしれません)、それでもあなたが話題を変えなかったとき、相手が急に不機嫌になったりすれば、相手はその話題に対して嫌悪感や恐怖をいだいているかもしれませんね。

 

ただ強調しておきたいことは、相手の心理状態の変化が起こったことは比較的カンタンに見破ることが出来ますが、だからといってその心理状態の原因が「嘘をついている」ことかどうかを断定することは非常に難しいです。

 

繰り返しますが、相手の心理状態の変化はしっかり観察すれば読めます。しかし思考を読むことは不可能なのです。

 

 

<まとめ>

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①ウソを見抜くことは非常に難しい。しかし、相手の心理変化は「不安」「恐怖」「不安回避行動」などを通して推測することが可能である。

 

②相手の心理変化をきちんと推測するには、適度なプレッシャーをかけて「不安」「緊張」を誘発させるような尋問テクニックが有効である。

 

③上記2点を実行できたとしても、相手の心理状態は推測できても、思考を読めるわけではない。

 

 

以上になります。

相手の行動が思考や心理の産物とは限らない点が、行動から心理を読むことの難しさの一つの原因にもなっています。

上手に尋問することで相手のウソは見破れなくても、相手の心理変化を読み取り、相手にとって何が不都合なのかは推測できます。相手がウソをついているかどうかはそこから推測していくしかないですね...!

 

 

 

相手の心理を見抜くにはもう一つの方法があります。

「共感能力」を使うという手段です。

 

「なんとなくイヤな予感がする」「あの子今日機嫌わるいのかな」とか感じて、結構そういう予感が的中した経験をお持ちの方も多いと思います。

また、フィクションと分かっていても、マンガや小説・映画に共感して泣いたり、主人公に感情移入して一緒に怒ったり、悩んだりしたご経験もあると思います。

 

そういう人間が本来もっている感情移入する力・共感することで相手の心理を理解する力を「共感能力」といいます。

 

本来群れをなすことで繁栄してきた人間が、コミュニケーション能力の一つとして発達させてきたものだと言われています。

 

実はこの共感能力、訓練であげることが出来ます。

よかったら下記の共感能力に関する過去記事も参照してくださいね!

 

yuukoki.hatenablog.com

 

yuukoki.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

<参考図書>

*1:越智啓太 著、『犯罪捜査の心理学』、株式会社 新曜社

*2:J・ナヴァロ、M・カーリンズ著、『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』、株式会社 河出書房新社

 

 

 

 

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