腸内細菌を育てて、メンタルも体調不良も改善できるかも!?
今回は腸内細菌とさまざまな病気との関連についてまとめます。
腸内細菌とは、読んで字のごとく腸内に生息する細菌のことです。
善玉菌と悪玉菌がおり、善玉菌は人体だけでは合成できないさまざまな栄養素を合成してくれたり、腸内の免疫系を正常に保ってくれています。
近年、この腸内細菌に関してさまざまな研究が急速に進んでいて、腸内細菌群(腸内フローラともいいます)を正常に保つことにより、メンタルの改善だけでなく、さまざまな疾患を予防・改善できる可能性を示唆する報告がなされています。
今回は「腸内細菌を改善することで軽減できるかもしれない疾患」、「腸内細菌とメンタルの関係」、「腸内細菌を正常に保つために気をつけること」などをまとめたいと思います。
やや難しい内容になってしまっているのはご容赦ください...!
出来るだけ簡単に解説できるようがんばります(笑)。
<腸内細菌とメンタルの関係>
「腸脳相関」という言葉があります。
簡単にいうと、「腸内の異常が神経やホルモン・分子を介して脳に伝わり不安やうつに関与するとともに、脳内の異常も腸のさまざまな不調に関与する」ということです。
実際にマウスをつかった動物実験でも、ストレス下にあるマウスとそうでないマウスの腸内細菌群は異なっており、それが原因でさまざまな自己免疫疾患(多発性硬化症や全身性エリテマトーデスなど)が発症するのではないか、との仮説も提唱されています。
またヒトにおいても、腸内細菌サプリ(プロバイオティクスともいいます)を4週間にわたり飲むと、攻撃的な思考が減り、レジリエンス(ストレスやトラウマから回復する能力のこと)が向上したとの報告もあります。
こういうわけで、腸と脳は機能的にもつながっているため「腸は第二の脳」とも呼ばれたりします。
それだけ腸の状態は脳、すなわちメンタルに影響を与えるということですね。
二つの研究の結果をご紹介します。
まずカリフォルニア大学の研究です。
被験者に4週間にわたって乳製発酵食品を食べ続けてもらいました。その結果、注意力の向上が有意に認められました。これと似た結果が、他の発酵食品(キムチや納豆)などでも得られており、発酵食品に含まれる有用微生物が脳機能の改善をもたらす可能性が示されています(*1)。
またベルギーで約1000人を対象に行われた研究でもメンタルと腸内細菌の関連が示唆されています。
うつ病と診断されている人の腸内細菌を調べたところ、ある特定の細菌が少ないことが分かったのです。
さらに治療抵抗性のうつ病患者と健常人の腸内細菌を比較解析したところ、腸内細菌由来のドーパミン合成能と精神状態に関連が認められたそうです(*2)。
うつ病の患者さんの脳内ではドーパミンやセロトニンが不足して、その結果うつ病になるという仮説(モノアミン欠乏仮説)が提唱されています。
腸内で合成されたドーパミンあるいはその前駆物質が血液脳関門を通過するのかなどの課題もありますが、ドーパミンを作ってくれる腸内細菌を腸内で増やすことができれば、うつ病の軽減につながるという可能性を示唆した報告になります。今後の研究に期待です。
<腸内細菌とさまざまな疾患>
①腸内細菌サプリでアレルギーやアトピーが改善
フロリダで行われた実験です。花粉症の被験者173名が腸内細菌サプリ(ビオフェルミンとかビオスリーなどの、よくドラッグストアで売っているものです)を8週間にわたり飲んだところ、目のかゆみが改善したり鼻水の量が減っていたりしていて、花粉症の改善が見られたそうです。
また別の研究で、家族にアトピーの患者が多い妊婦さん約150人を集め、二つのグループに分けました。片方のグループにはLGG乳酸菌を摂ってもらい、もう片方のグループにはプラセボ(乳酸菌の入っていないカプセル)を飲んでもらい、生まれてくる赤ちゃんのアトピー発症率を比較しました。その結果、LGG乳酸菌を摂ったグループの赤ちゃんのアトピーの発症率は、そうでないグループに比べ半減していました。(*3)
腸内細菌サプリがアトピーやアレルギー症状の程度や発症率を軽減させるということが分かったのです。
②過敏性腸症候群にも腸内細菌が効く?
過敏性腸症候群とはなかなかやっかいな病気です。腹痛、おなかが張る、ガス(おなら)が止まらない、下痢が起こる、便秘が続くなどの症状が出るのですが、どんな検査を行っても異常は見つからない病気です。原因はストレスといわれていますが、詳細は不明です。このやっかいな過敏性腸症候群にも腸内細菌の投与が良い効果を示したという報告もあります。報告では、Bifidobactrium infantis 35624という腸内細菌を投与すると、腹痛・腹部膨満感が改善したという結果でした(Lactobacillusでは効果がなかったため、腸内細菌サプリなら何でも良いというわけではないようです)。(*4)
<良い腸内細菌を増やすには?>
①抗生物質を飲むと腸内細菌は壊滅する。
よく風邪で病院に行ったりすると抗生物質が処方されます。抗生物質の濫用は社会的にも問題となっていますが、なぜだか分からないくらいよく処方されます。
たしかに本当に感染症になっているのなら抗生物質の投与は必須です。病気のもととなる菌をすみやかに退治してくれます。ただこの抗生物質、腸内細菌をも退治してしまうのです。抗生物質を飲むとお腹を壊すのはそのためです。
お医者さんが処方するのだから、勝手な判断で服用を止めたりすることは出来ませんが、どうしても抗生物質を飲まないといけないときは、いつもより多めにヨーグルトや腸内細菌サプリを摂って腸内細菌を補ってあげてください。
②発酵食品・腸内細菌サプリを摂る。
発酵食品である納豆やキムチ、味噌、ヨーグルトなどには豊富に善玉菌が含まれています。発酵食品を日常的に摂ると、心臓病や糖尿病の予防にも効果があり、メンタル改善にもよいなど、いいことづくしです。積極的に摂るようにしましょう。注意点としては、いろいろな発酵食品をバランスよく摂るということです。前述の過敏性腸症候群の例のように、ある病気には特定の腸内細菌しか効果がない、というケースも存在します。色々な発酵食品をバランスよく食べて、いろいろな腸内細菌をおなかに持っておくことが重要です。
③野菜を摂る
また、おなかの中にいる腸内細菌にエサを与えてあげることも重要です。腸内細菌のエサは「野菜」です。野菜は適度に消化が悪いため、小腸を通過し、腸内細菌がたくさん住んでいる大腸まで到達しやすいのです(消化の良すぎるたべものは小腸でほとんど吸収されしまい、大腸まで届きません)。野菜もバランスよく摂ることが重要です。ただし、体質によっては野菜を摂りすぎるとおなかが張る・ガスが出るなどの症状が出ることもありますので、ご自分の体調に合わせて摂るように心がけてください。
今回は以上になります。
腸内細菌の改善はさまざまな身体・メンタルの不調に効果が期待されますので、ご自分の体調と相談して、日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?
腸内細菌と病気・脳・メンタルの関係の研究は非常に多いのですが、臨床報告レベルやサンプル数の少ない研究などもかなりあり、必ずしも質の高い研究ばかりではないのが現状です。とはいえ希望的な研究結果もたくさんありますので、今後に期待したいです!
それではまた次の記事で〜!
<参考図書・文献>
*1:鈴木 祐 著, 最高の体調, 株式会社クロスメディア・パブリッシング
*2:Valles-Colomer M.,et al (2019). Nature Microbiology 4, 623-632.
*3:Kaliomaki.,et al (2001) The Lancet 357, 1076-1079.
*4:福土 審.,(2018) 腸内細菌学雑誌 357, 1-6.